きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『鍵のない夢を見る』辻村深月

この作品は、直木賞を受賞した際に読んだ本です。いま思えばこれが辻村深月さんとの出会いでした。地方の街でささやかな夢を見る女たちの暗転を描いた素敵な作品で、辻村さんの本で一番好きな作品です。

鍵のない夢を見る (文春文庫)

鍵のない夢を見る (文春文庫)

辻村深月(1980~)

山梨県笛吹市出身。 千葉大学教育学部を卒業。

1.仁志野町の泥棒

ミチルは母親とのバス旅行の途中、バスガイドが小学校時代の同級生の律子だと気付く。転校生である律子は明るく可愛い女の子で、ミチルとも親しくなるが、彼女の母親は泥棒だという噂があった。

2.石蕗南地区の放火

災害共済地方支部に勤める笙子。実家の目の前の消防団詰め所に不審火が出たという事で現場調査に行く。そこで顔を合わせたのが、かつて合コンで出会った大林。しつこい大林と一度デートしたことを後悔している笙子ですが、現場では大林はわざとらしく親しげに声をかける。

3.美弥谷団地の逃亡者

ご近所限定で出会いを探せる出会い系サイトで陽次と出会った美衣。どこにでもあるカップルの夏旅行のヒトコマに見えますが、美衣の目にはこれでもかというくらい陽次のダメな部分が目につく。決定的なのは、買い物の時に美衣の母親のクレジットカードを陽次が使おうとするところだった。

4.芹葉大学の夢と殺人

未玖は大学時代の恩師が殺されたと知り、咄嗟に恋人の雄大が犯人ではないかと思う。荒唐無稽な夢を見続ける雄大は教授と上手くいっておらず、教授のせいで留年したと信じていた。やがて未玖に雄大から連絡がきて、話が展開していく。

5.君本家の誘拐

結婚数年目にして待望の赤ちゃんを授かった良枝。夢見ていた我が子との生活は、想像以上に過酷なものだった。疲れ果てる良枝だが、ある日、ショッピングモールで娘が消えてしまう。

[感想]

これを読む時の読者の年齢や人生の経験値によって印象が変わる作品だと思います。この作品は5編の短編集から成っていますが、それぞれ主人公はその辺にいそうな女性達です。その中に共感できる主人公がいるかもしれません。最後の短編の中でこんな台詞がありました。「良枝はさ、昔から人生設計が階段階段って感じで、踊り場がなかったのかもしれないね」(p.211)。とても胸に響きました。実際一歩間違うと犯罪という危なっかしい青春時代を送っている人は少なくないのでないでしょうか。世間知らずで怖いもの知らずだからこそ、恋やドラマが生まれると思いました。