きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『よだかの星』宮沢賢治

私が最も好きな作家のひとりです。彼の小説は大好きなんですが、特に詩集『春と修羅』を読んだ時の衝撃は忘れられないですね。今回はかなり短い作品にはなるのですが『よだかの星』を紹介していきます。

よだかの星 (日本の童話名作選)

よだかの星 (日本の童話名作選)

宮沢賢治(1896~1933)

岩手県花巻生まれ。盛岡高等農林学校卒。1921年から5年間、花巻農学校教諭。

1.あらすじ

よだかは、美しいはちすずめやかわせみの兄でありながら、容姿が醜く不格好なゆえに鳥の仲間から嫌われ、鷹からも「たか」の名前を使うな「市蔵」にせよと改名を強要され、故郷を捨てる。自分が生きるためにたくさんの虫の命を食べるために奪っていることを嫌悪して、彼はついに生きることに絶望し、太陽へ向かって飛びながら、焼け死んでもいいからあなたの所へ行かせて下さいと願う。太陽に、お前は夜の鳥だから星に頼んでごらんと言われて、星々にその願いを叶えてもらおうとするが、相手にされない。居場所を失い、命をかけて夜空を飛び続けたよだかは、いつしか青白く燃え上がる「よだかの星」となり、今でも夜空で燃える存在となる。

2.いじめ

(一たい僕ぼくは、なぜこうみんなにいやがられるのだろう。僕の顔は、味噌をつけたようで、口は裂さけてるからなあ。それだって、僕は今まで、なんにも悪いことをしたことがない。赤ん坊ぼうのめじろが巣から落ちていたときは、助けて巣へ連れて行ってやった。そしたらめじろは、赤ん坊をまるでぬす人からでもとりかえすように僕からひきはなしたんだなあ。それからひどく僕を笑ったっけ。それにああ、今度は市蔵だなんて、首へふだをかけるなんて、つらいはなしだなあ。)

よだかの顔はまだら模様、嘴は平たく耳まで裂けていて、他の鳥たちはその顔から相手をしてくれない。まさに、様々な人間社会で起きているいじめを想起させられる。幼少の頃に受けた言葉は、大人になってもその人の行動心理にかなり影響すると私は思っている。一度失った自己肯定感を取り戻すのは容易ではないからこそ、他人にかける言葉には気をつけたい。

3.食物連鎖

(ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。僕はもう虫をたべないで餓うえて死のう。いやその前にもう鷹が僕を殺すだろう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう。)

いろいろな生き物たちが、食ったり食われたりしながら生きている。地球という惑星上の全生物が置かれているいわゆる"食物連鎖"という宿命に苦悩する。生きものを捕獲して食べなければ命をつなげない苦しみや悲しみに敏感になれるのは、よだかがいじめを受けてきたからこそだと思う。飽食の時代だからこそ考えさせられるが、食べないと生きていけない矛盾。

[感想]

誰かと比べることで、自分の存在に価値を見出してしまう。私は勉強をそれなりに努力してきたが、勉強しなかった方が幸せだったのかもしれないと思ってしまうことがある。大学にきたものの私より恵まれた環境に生まれ、何の不自由もなく生きてきた人間が多いことに気づく。もちろん私が知っている彼/彼女らはほんの一面かもしれないが、そう感じてしまう。勉強しないで生きていたら、こんなに恵まれている人との差に苦しまずに生きていけたのかもしれない。愚かなまま幸せになった方が良かったのではないかと、ふと考えてしまう。私は私のままでいいはずなのに・・・