きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『健全な肉体に狂気は宿る――生きづらさの正体』内田樹 春日武彦

「『自分探し』と『自己実現』に疲れ果てた人へ」という言葉に惹かれました。なぜか最近はこのような本を好んで読んでます。少し疲れているのでしょうか。それともひとの心理に興味があるのでしょうか。

健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体 (角川Oneテーマ21)

健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体 (角川Oneテーマ21)

内田樹(1950~)

東京生まれ。都立女学院大学文学部教総合文化学科教授。

春日武彦(1951~)

京都生まれ。神経科医。都立墨東病院神経科部長。

1.世代論に逃げこむな

引きこもりは男性が多く、一種の罪悪感みたいなものが大きなポイントという。「親の期待にどうやっても応えられない」ということ、全然根拠のない、「ただなんとなく」という罪悪感。春日さんは、子どものころに不条理な状況におかれて、「これは自分に非があるんだ」と根拠もなく思い込んだ経験からくるのではないか、という。

2.「自分探し」はもうやめよう

「取り越し苦労をするな」という。取り越し苦労というのは、未来が予測不能であることが前提となっている。未来に対して、楽観的になりなさい、ということではなく、全方位的にリラックスして構えていないと対応できないよ、ということだという。そして、「自分探し」は自殺行為で、その自分自身に対する無知こそが創造の泉みたいなものという考え方は感銘を受けた。

3.人間は、わかり合えっこない

コミュニケーションとわかり合うことは次元が違うこと。コミュニケーションというのは、深まれば深まるほどわからない部分が増えてくる。情報が増えれば増えるほど相手のことが分からなくなっていく。わからないから「もっと知りたい」と思い、敬意や畏怖の気持ちが深まっていくと内田先生はいう。

4.個性とこだわり幻想

洋服は、その人の一番弱い部分とか感受性のやわなところが外部に露出していて、もっと服装で人を判断してもいい。むしろ、人は服装で判断すべきともいう。確かに、服装はその人の好きな色、模様だったりが反映されるので、性格があらわれると思う。

5.健全な肉体に狂気は宿る

サスペンスドラマは、事件があれば必ず犯人がいて、探偵は必ず真犯人を見つけるとか、結果があれば原因があるという考え方は、ペニー=ガム法的なかなり危険な考え方らしい。必ず犯行動機が説明される。しかし、現実の方は、ずっと謎めいていて、不可解である。

[感想]

春日武彦さんのあとがきが、とても良かったです。また、精神の病の原因とされる「わけのわからない罪悪感」は、精神的な寄生体といった色彩を濃く帯びており、人類全体として見ればエネルギー保存の法則と同じように心の嫌な部分というのは不変であり、それが個体間で繁く移動しているだけなのかもしれない、という指摘にはさすがに考えさせられるものがありました。 偶然、春田武彦さんの本を連続で手にとってしまったのだけれど、どちらの本も読んで良かったです。