きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『躁と鬱――波動に生きる』斎藤茂太

梅雨も明けて夏が始まりました。天気と同じように、人は大なり小なり「躁」や「うつ」の感情の波動の中に生きています。病的な症状に陥る場合もありますが、それを様々な症例をあげて解きあかす本です。

躁と鬱―波動に生きる (中公新書 580)

躁と鬱―波動に生きる (中公新書 580)

斎藤茂太(1916~)

東京に生れる。明治大学文芸科、昭和医科大学卒、慶應義塾大学医学部にて精神医学専攻。

1.「躁うつ病」の本態はなにか

「躁うつ病の本態はなにか、ときかれると正直のところ、『わからない』と答えるよりしかたがない。」(p.25)

躁うつ病といっても、アルコール性躁病とか、躁うつ的飲酒者といったアルコールとの関連がある「病名」があったり、思春期躁うつ病といった病名までありややこしい。何歳ごろに発病しやすいかという問題も同じで、一定の傾向がみとめられないという。

2.境界領域と「うつ病」

「循環器系や消化器系の内科の医師や、産婦人科医、整形外科医などもまた、患者のなかにうつ状態をみることはまれではないが、死刑囚や、重罪被告といういわば人間の極限状況のなかにも、躁うつ状態が存在することは、躁うつがはなはだ『人間』と密着した表現方法であることの証左であろう。」(p.177)

拘置所、刑務所に発生する、いわゆる「拘禁ノイローゼ」。その中身は、爆発反応(原始的なめちゃめちゃな爆発発作)、混迷(死んだようにまったく不動の状態)、ガンゼル症状群(わざとらしい、ゆっくりした応答と道化じみた仕種)、被害妄想がみられるが、なかには躁うつ的な状況も発生するという。

3.『現代史を支配する病人たち』によせて

「躁とうつの『波動』をもち、それが自己のなしとげた仕事に大きく影響した天才はたくさんいる。」(p.198)

思想家も、作家も、詩人も、科学者も人類の歴史に大きな足跡と影響を与えているが、人類何百万、何千万の運命を左右する為政者の「人間」もまた、無限の重要さをもつ。1976年に出版された『現代史を支配する病人たち』という本で、政治家が思い病気の主だったらどうなるだろう、と著者たちが戦慄するという内容らしい。短かったが、とても面白い記述だった。

[感想]

本書は40年近くも前に出版されていることを念頭にいれて読むと、とても興味深いものでした。こんな昔から「躁うつ」について、研究が進んでいたことに驚きました。冬と夏の温度差が2度くらいしかないハワイやマレーシアは別として、日本は春・夏・秋・冬という季節に支配されています。とくに、冬と夏は、はっきりと反対です。冬はシンシンと骨身にしみいる寒さなのに、夏の暑さはまた格別です。ニューヨークも、暑さ、寒さの差がはげしいです。これが自然で、みごとな文化が開花しているように、気分は安定しないからこそ、人間はそれぞれ違って面白いのだと思いました。