『大不平等――エレファントカーブが予測する未来』ブランコ・ミラノヴィッチ
経済的な不平等を感じたことはありますか?私はというと幼少の頃から貧しく、親からお金を沢山もらえる家庭がとても羨ましかった。家に何もなったから、図書館に籠って本を読むようになったんだけどね。
- 作者: ブランコ・ミラノヴィッチ,立木勝
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2017/06/10
- メディア: 単行本
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ブランコ・ミラノヴィッチ(??~)
ルクセンブルク所得研究センター上級研究員、ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授。ベオグラード大学で博士号を取得後、世界銀行調査部の主任エコノミストを20年間務める。
1.エレファントカーブ
本著の表紙になっている赤いカーブのこと。これは、アフリカの貧困層からアメリカの富裕層まで世界中の人々の所得の伸び率を比べたグラフで、象が鼻を持ち上げたようなカーブを描いている。先端でもちあがっているのが世界的に見て非常に裕福な人たち、付け根で高い位置にいるのがアジアの貧困層および中間層、そして途中の一番下がったところにいるのが豊かな世界の下位中間層。
- 金融危機の影響(2008年~2011年)で、グローバル中間層の成長の流れが強まった。後押ししたのはそれまでと同じく、中国の高い成長率である。他方、豊かな世界では成長が見られない。
- 所得増加率がほぼゼロの先進国中間層の没落、アジア諸国の著しい台頭を裏付ける。
- 中国での所得の進化はグローバルな変化を象徴している。
2.クズネッツ仮説
不平等は所得水準が非常に低いときには小さく、経済発展とともに拡大して、最後には所得水準の高いところで再び縮小すると考える。サイモン・クズネッツが提唱した。
- しかし、1980年代からジニ係数(所得不平等の測度)が右肩上がりの曲線に変わった。
- 著者は「クズネッツ曲線」に代えて「クズネッツ波形」を提唱する。この波形は、不平等が無限に拡大しないことを物語る。
3.市民プレミアム
収入のほとんどは「どこの国に生まれるか」という偶然でほぼ決まってしまう。世界最貧国ゴンゴと米国の所得格差はおよそ93倍。市民権によるレントはその国のどの所得階層にいるかによっても変わり、スウェーデンとゴンゴは平均72倍だが、最も貧しい階層同士を比べるとこれが105倍に広がる。
- 古典的な資本主義では、仕事をせずに利子だけ受け取るので不労所得者は軽蔑された。
- 新しい資本主義では、上位1%の高所得者は、高い教育を受け、熱心に仕事をしている。
4.次はどうなるか
本著で検討されているものをいくつかピックアップしたい。
- 豊かな国々はどうなるか?
- 所得格差を縮小するための手段は?
- 再分配前取得、あるいは市場所得の格差を縮小する政策は?
- 各国間の平均所得の格差を縮小する政策は?
オートメーション化による機械(AI、ロボット)との競争と、グローバリゼーションによる新興国労働者との競争にさらされて苦しんでいる。
税や社会保障による再分配政策に頼って可処分所得を平等化するよりも、再分配前所得を平等化する方がベターである。高額所得者の租税が各国で行き渡っているし、高資産保有者は資産をタックスヘイブンに移すのがあたり前になっているから。
親から子どもへの世代間資産移転額を小さくすること、教育の機会均等策を徹底して、教育差による所得格差を小さくする策の採用などが主張される。
発展途上国の経済成長率を高くする策がベストであると主張する。すなわち、先進国は発展途上国の成長を支援する義務がある。
[感想]
先進国だけや20世紀以降だけで格差を考えるのと、グローバルな視野に加えて中世以降からといった長期的視点で格差を考えるのでは、同じ問題をみるのに景色が違うと感じた。まえに上位62人の資産と下位36億人の資産が同じということが話題になったが、格差あるいは貧困に関するニュースは連日のように流れている。これからは機械(AI、ロボット)が労働の機会を奪っていくことで、職業に専門性が求められ、教育格差が経済格差を拡げそう。結局、教育格差は経済格差からくるものなんだけどね。