きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『キッチン』吉本ばなな

私は、読んでいる時に「私にもこの気持ち分かる!この感情を文字で表現してくれる小説家にやっと出会えた!」となった時が、小説を読んでいて一番良かったと思える瞬間です。他の人は、どうなのだろう。

キッチン (福武文庫)

キッチン (福武文庫)

吉本ばなな(1964~)

東京に生まれる。日本大学芸術学部文芸学科卒。

1.この世で一番好きな場所

「私がこの世で一番好きな場所は台所だと思う。」(p.6)

本著の冒頭。私は台所が一番好きな場所ではないけど、なんとなく分かると思った。私がこの世で一番好きな場所は洗濯機の前だと思う。ドラム式洗濯機の前に体育座りして、自分が着ていた服がぐるぐる回るのをぼーっと見る時間が好き。次点で、ベットかもしれない。

2.大切な人の喪失

「先日、祖母が死んでしまった。びっくりした。」(p.7)

「家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる。」(p.7)

私は、友達を亡くした経験があるけど、その友達が死ぬ前の自分には一生戻れない。その後に、祖父も祖母も寿命で亡くしている。そのせいか、人の死にまつわる作品に出会うと自分自身の人生にすぐ繋げてしまう。ドラマとか映画とか、すぐに泣いてしまうようになった。

3.喪失感からの再生

「人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかわかんないと、本当に楽しいことが何かわかんない」(p.66)

主人公である櫻井みかげは、田辺家の温かな好意に包まれ、みかげの心は次第に癒され、生きる意欲を回復していく。私は、みかげと同じようにこの台詞に「わかる気がする」と思った。でも、私も人生に絶望したことがある(と思い込んでるだけかもしれない)けど、自分のどこが本当に捨てらんないのかが分かってない。本当の絶望ではなかったからなのか。

4.死生観

「どうしても自分がいつか死ぬということを感じ続けていたい。でないと生きている気がしない。だから、こんな人生になった。」(p.91)

人によって死生観は異なる。みかげに自分の境遇が似ているからか分からないが、私はこの死生観に深く共感してしまった。私は、今日死ぬかもしれないと毎日思いながら生きている。死にたがりではないけど、いつからかそう考えながら生きるようになった。そういう自分が、一番自分らしいというか。

[感想]

愛読書にしたいような1冊だった。この小説には「緑」と「水」と「光」が繰り返し登場していて、そこが印象的だった。絶望は終わりでなく、自分の核が見つかるきっかけになるという意味での始まりだというメッセージ性を私は感じた。本当にそうだろうか?この小説では、唯一の肉親を失った2人がお互いの支えになり、生きる希望を見つけだすことが主題となっているが、もし支えてくれる人がいなければ絶望しかないのかもしれないと思った。ここまで書いてみたけど、私は答えが見つからなかった。