きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『朝が来る』辻村深月

辻村深月さんのこと好きな読書家の人はかなり多いと思う。私もそのひとりなんだけれど、彼女の小説は私の感情の言語化できていない部分を丁寧にすくってくれる。今回も、すぐに一冊読み終えてしまった。

朝が来る (文春文庫)

朝が来る (文春文庫)

辻村深月(1980~)

山梨県笛吹市出身。 千葉大学教育学部を卒業。

1.長く辛い不妊治療

経済的に恵まれていて、子どもがいないことに殆ど頓着してはいなかったものの、親に勧められて不妊治療を受けるうちに、夫が無精子症で治療できることが発覚する。治療できるタイプ希望が無いならば諦めていたかもしれないが、僅かに希望を求めてしまう。子どもなんていなくていいと思っていたはずが、不妊治療をはじめる。私は本著にあるように、不妊治療がこんなにも肉体的にも精神的にも経済的にもきついものだと知らなかった。疲れ切った夫婦がついに諦めて知ったのが、特別養子縁組だった。

2.望まない妊娠

子を手放さなければならなかった女子中学生の視点にうつる。普通の女子中学生だったけれど、親に内緒で彼氏を作ったり、こっそりメールを送りあったり、部活後に彼氏の部屋に寄ったり、それほど特別ではなかった筈です。最初のセックスで一度だけ避妊をしなかった、というのも、男子中学生の幼すぎる身勝手だった。彼女は、妊娠したことによって、大きく生活が変わってしまう。彼女の側は、特別養子縁組を親から強制されてしまう。

[感想]

自分の言いたいことが物語の中に丁寧に落とし込まれていると思う。私は、それが彼女の一番の魅力だと思っていて、雑誌のインタビュー記事を読んでも彼女の人間性に惹かれる部分も大きい。冒頭に、ご近所の方と揉めて理不尽とも思えることを言われるのが冒頭部分で、それでもその人のことを拒絶しない理由に辿り着いたときに「やっぱり辻村深月さんの小説好きだな」と思った。今回は特別養子縁組の手段をとった夫婦の話で、メッセージ性の強い作品だと思う。これからも彼女の作品は追い続けたい。