きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『「子供を殺してください」という親たち』押川剛

究極の育児・教育の失敗ともいえる事例から見えてくることを分析し、その対策を検討する衝撃のノンフィクションでした。調べると、同タイトルのコミックスを見つけたので、今度読みたいと思いました。

「子供を殺してください」という親たち(新潮文庫)

「子供を殺してください」という親たち(新潮文庫)

押川剛(1968~)

福岡県生れ。専修大学中退。トキワ警備(現・トキワ精神保健事務所)を創業。

1.「子供を殺してください」という親たち

「家族はもはや、『殺すか殺されるか』というところまで、追いつめられています。」(p.177)

少しオーバーな表現に感じたが、著者は特殊な家庭環境にある家族だけの話ではないと言いきる。周囲の人の理解を越えるような問題行動をとってしまう対象者の根底には、幼少期から何らかのサインがあるという。そして「こうなったのは親のせいだ」と、家族に責任転嫁し、苛立ちが家族、ときには第三者に向かうと分析する。

2.最悪なケースほどシャットアウト

「危険で対応困難な『グレーゾーン』のケースほど、対応を間違えれば、自分が訴えられたり怪我をしたり恨まれたり、ということになりかねません。」(p.191)

表向きは「精神科医療の範疇ではない」「治療効果があがらない」ことを理由に、最も難しい問題が「グレーゾーン」として取り残されている現状があるという。

3.日本の精神保健分野のこれから

真の問題解決のためには、対象者に直接会うことはもちろん、保健所や医療機関、警察など専門機関の横の連携を図るパイプ役が必要。そのパイプ役となれるスペシャリスト集団の育成や設立について、政府および各地方自治体において広く議論すべきだと主張する。

4.家族にできること、すべきこと

「子供は、『対応困難な問題を繰り返す』という形で、親に自分の『心』を突きつけているのです。」(p.278)

患者や家族に寄り添い、精一杯のことをしてくれる専門家と信頼関係を作り、協力の輪を広げていくことができれば、事態は好転していく可能性がある。そのためには、やはり家族がどれだけ真摯に問題に取り組んでいるかが試されるという。

[感想]

私は、学生でまだ親になるのもなれるのも先ですが、とても考えさせられました。昨今、精神障害者と思われる人の犯罪が大きく取り上げられる中、社会として何ができるか、何をしなければならないのかについて記述されています。自らは病気の自覚のない、精神を病んだ人を説得して医療につなげてきた著者の許には、万策尽きて疲れ果てた親がやってくる。過度の教育圧力に潰れたエリートの息子、酒に溺れて親に刃物を向ける男、母親を奴隷扱いし、ゴミに埋もれて生活する娘。すべてを他人事ではなく、社会の問題として考えていくことが大事な気がしました。世の中には、もっと愛が必要な気もします。