『もしもあなたが猫だったら?――「思考実験」が判断力をみがく』竹内薫
著者は「思考実験」=脳内シチュエーションを刺激的なゲームであると同時に、科学的思考法を身につける絶好のトレーニングだと言います。私はいつも寝る前に考え事するのが好きだから、気になりました。
もしもあなたが猫だったら?―「思考実験」が判断力をみがく (中公新書)
- 作者: 竹内薫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/12/01
- メディア: 新書
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竹内薫(1960~)
東京生まれ。猫好き科学作家。東京大学、マギル大学大学院卒業。理学博士。
1.目次
- もしもあなたが猫だったら?
- もしも重力がちょっぴりだけ強かったら
- もしもプラトンが正しかったら
- もしもテレポーテーションされてしまったら
- もしも仮面をつけることができたら
- もしも小悪魔がいたならば
- もしもアインシュタインが正しかったならば
以下で、1つだけ紹介。
2.もしも仮面をつけることができたら
「『役割理論』というのがあります。哲学者が好んで使う理論なんですが、基本的には一つの人格なんだけれども、実際には場面場面において役割を使い分けているんだゾ、と。だから舞台の上で役を演じているのと同じように、現実の社会でも常に役を演じているという話なんですよ。」(p.124)
たとえば学校にいけば、学生なりの役割がある。実家に戻れば、娘になったり姉になったり、そういうのは全部、役割と言えば役割ですよね。あまりにもあたりまえすぎて、みんな意識しないんだけれども、確実に仮面はたくさんあって、使い分けている。
思考実験:家の中での役割、外に出て買い物をしているときの役割、あるいは同級生と会っているときの役割、仕事場での役割、お客さんを前にしての役割、パソコンでチャットしているときの役割……はたして、この中のどれが「本当のあなた」ですか?
たとえ自分一人で部屋にこもって読書をしているときでさえ、それは一つの人格にすぎないと思う。実際、どれが本当か、という問い自体がナンセンスで、人間には「一つの固定された客観的な人格なんて存在しない」じゃないかと考えた。
思考実験:あなたが生放送で全国ネットのニュース番組のキャスターの席に座ったときと、まったく正体が見えない「2ちゃんねる」の掲示板に書き込みをするときとで、あなたの言動は変わるだろうか? 身近な政治ニュースを例に、想像してみてください。
常に仮面というものを意識しているとおもしろいなと、私は思う。仮面を被ると、違う可能性が生じてくる。これはハロウィンで仮装した人達で賑わうスクランブル交差点のようなもので、ひとにはどこか変身願望ってあるのかなと思う。人間って、周囲の圧力や人間関係の力学があって、その中で不本意な仮面を被っていることも多い。それが一切要らない状況というのは、やっぱり快感じゃないだろうか。
[感想]
「他人の立場になって考えることが出来れば、無駄な諍いもなくなるでしょうし、視野が広くなるので、物事を大局的に眺める癖がつき、社会生活や人間関係が楽になります。また、さまざまな可能性も広がりますから、人生がうまく廻るようになります」(p.3)というところが、印象に残りました。著者は、本書で、思考実験を通じて、固定化され惰性化したモノ的世界観を脱却して、より自由闊達で無限の可能性を秘めたコト的世界観へと私たち読者を誘いたかったといいます。思考実験は自分を主観を外さないといけませんが、違う多面的な感覚を感じることができて、自分ではなく他者の側に立つことができるので、とても面白いと思いました。