『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』山極寿一
思わず手に取りたくなるようなタイトル。ゴリラを研究対象として人類の起源をさぐっている京都大学の偉い人ということは知っていました。前から気にはなっていたんですが、やっと読むことができました。
- 作者: 山極寿一
- 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
- 発売日: 2018/04/25
- メディア: 単行本
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山極寿一(1951~)
東京都生まれ。霊長類学・人類学者、京都大学総長。
1.なぜ人は満たされないのか
「自己を重んじ、自分を中心に他者とつき合う傾向が肥大しつつある。」(p.34)
音楽は、他人と一体化して、世界を共有させる働きがある。それを人間は言葉によって高めたという。信頼できる人たちの期待によって自分をつくる必要があるにもかかわらず、その信頼の輪である家族の崩壊が進んでいる。著者は、経済的な時間概念によって、孤独な人間が増えたと考える。自分だけに使える時間を追い求めたうえに、それさえも効率化の対象にしてしまったと指摘する。
2.しなやかな人間を創る教育とは
「現代は、知識そのものではなく、実践する力や考える力を教える力を教える時代である」(p.88)
過剰な情報は想像する力を奪うという。高校までは既存の正しい知識をいかに習得するか、大学で本当の学問に出合うことになる。大学生の私も、解のない世界に苦闘する楽しさを日々感じている。
「個人に一つだけの能力を期待し、それを果たせない人々を見捨てようとする社会は生きづらいし、創造の精神は発揮できない」(p.136)
この前置きに、京都大学からドラフト2位の指名を受け、プロへの道に進んだ選手の話がある。周囲の期待によって、自分の能力をのばしていく人がいる一方、東京オリンピックのマラソンで銅メダルをとった円谷幸吉選手のように自ら命を絶つ人もいることは肝に銘じておく必要があると思わされた。
3.人類が見落としている平和への近道
「道徳は自分が属したい共同体があってこそ成り立つ。」(p.156)
著者は、さらに「道徳の低下は、現代の日本人が急速に孤独になったことを示している」(p.156)という。信頼できる共同体が現実世界になくなり、インターネットの世界で探す人が増えているのだろうかと思った。また、興味深かったのが、いまのIT時代の信頼関係のつくり方では、不在を許容できなくなっている点は人間の歴史に逆行し、サルの社会にもどることだと述べられている点。
[感想]
装丁のデザインのユニークさに惹かれて読んでみたが、とても良かった。面白いだけでなく、私が漠然と日々疑問に思っているようなことを、ゴリラの生態と比較して解き明かそうとするのが面白かった。ゴリラは狂暴な動物ではなく、平和な暮らしを営む温和な性格というのも知らなかった。人間が進化する前のところに一度立ち戻って考えるというのも斬新で、多くの学びが得られる本ではないかなと思う。