きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源』ピーター・ゴドフリー=スミス

タイトルに惹かれました。本書では、頭足類にmindが備わっていることを示唆するエピソードがいくつも紹介されています。頭足類と人間は大きく異なりますが、人間と相対化して読んでいくと面白いです。

タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源

タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源

ピーター・ゴドフリー=スミス(1965~)

シドニー生まれ。専門は生物哲学、心の哲学、プラグマティズム(特にジョン・デューイ)、科学哲学。

1.タコは初期の世界の唯一の生き残り

「頭足類は、無脊椎動物の海に浮かぶ孤島のような存在である。」(p.9)

無脊椎動物に属する生物は、例外はあるが、ほとんど身体が小さい。そして、神経系も小さい。その例外が、頭足類で、軟体動物の一種であるが、大規模な神経系を進化させた。そのため生態は他の無脊椎動物とは大きく異なっているらしい。

2.感覚器

「カンブリア紀には、どの動物も、他の動物にとって環境の重要な一部となる。動物どうしの関わり合い、そして、それに伴う進化、いずれも、結局は動物の行動と、行動に使われる装置の問題ということになる。この時点以降、「心」は他の動物の心とのかかわり合いの中で進化したのだ。」(p.42)

カンブリア紀に入ると、死骸ではなく、生きた動物を食べるものが現れた。捕食がはじまると、動物たちは安穏としていられず、常に周囲に関心を向けておく必要が生じた。それぞれの動物は、それぞれに攻撃のため、あるいは防御のための工夫を凝らしはじめた。

3.遠心性コピー

「言おうとすることのコピーがつくられれば、外からはわからない内面だけの静かな行動が生じる――それがまた新たな可能性を生み、考えを整理することや、自らを律することに役立つ。」(p.190)

「遠心性コピー」とは、簡単にいうと内なる声。これは、知覚上の問題を解決する助けになるだけでなく、このメカニズムは動物が複雑な行動を取る際にも役割を果たすそう。過去の記憶を役立てられるのは、その記憶を留めていたからだし、それを扱えるからである。しかし、それをそれぞれの動物がどのような形で認識しているかはわからない。

4.生命にあふれている海

「私たちはこれからも海を大切に守っていかなくてはならない。」(p.246)

海は、陸上生物に不可欠な淡水の供給源になるほか、生物ポンプによる海洋の二酸化炭素の貯蔵機能をもっている。それだけではなく、海洋資源の育成、気候の安定化など、様々な恵みを人類に与えている。人類の生活を支えている海洋には、陸上の様々な物質が最終的に流れ込む。マイクロプラスチック問題が叫ばれて久しいが、タコをはじめ多くの生き物が棲んでいる海を大切に守っていきたい。

[感想]

本書は、単なる物質からどのようにして知性や心が生まれたのかを探っていき、生物の感覚、身体、行動がこれまでどのように進化してきたかをまとめる。その過程のどこかに、知性、心の進化が潜んでいる。タイトルから私の想像を超えて、哲学の本だった。本書の原題はOther Mindsである。本書は、まさに原題どおり、人間とは違う別のmindを持った生物についた本になっている。そして、その生物とはタコ、イカなどの頭足類である。心や知性らしきものを持っていそうな生物は、サル、あるいはイヌやネコなどの哺乳類がほとんどなので、私にとって斬新で面白かった。