『〈運ぶヒト〉の人類学』川田順造
アフリカで生まれ、二足歩行を始めた人類は、空いた手で荷物を運び、世界にちらばっていった。この〈運ぶ〉という能力こそ、ヒトをヒトたらしめたのではないか?と人類学に新たな光を当てる冒険の書。
- 作者: 川田順造
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/09/20
- メディア: 新書
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川田順造(1934~)
東京生まれ。東京大学教養学科文化人類学文科卒業。パリ第5大学民族学博士。
1.なぜ「運ぶヒト」か?
「ホモ・サピエンスが現代まで、世界に拡散して生きてこれたのも、アフリカを出るとき、立って歩き、自由になった両手を使って、最低限のものだったにせよ、新しい土地で生きてゆくのに必要な道具を、運ぶことができたからだ。」(p.3)
直立二足歩行のおかげで、私たちの直系の先祖は、わずかな荷物をもってアフリカを旅だった。アフリカ、ヨーロッパ、東アジアの三つの地点を比較対照し、〈運ぶ〉文化の展開と身体との関係を探っていく。
2.ヒトと道具――三つのモデル
ヒトと道具との関係を、以下の三つのモデルでとらえてみる。
- A=道具の脱人間化
- B=道具の人間化
- C=人間の道具化
「さまざまな指向性をもって、運搬法を工夫してきた『運ぶヒト』=ホモ・ポルターンスは、これからどこへ向かうのか。」(p.138)
フランス、日本、旧モシ王国という固有名詞をつけない三つのモデルとして、世界文化の視野で、実例にもとづく検討を重ねて修正しながら、より分析力の大きいモデルに精錬することを著者は目指す。
[感想]
筆者は「自分自身の身体を使って、身の丈に合ったものを運ぶという、ヒトの原点にあったはずのつつましさを思い出すこと」(p.170)を訴える。そして、「頭上運搬」が、今後アフリカ発でグローバル化されることを、ひそかに願う。ユニークな視点から人類学を考察していて、運び方に地域、文化、体型の差が現れるのが面白かった。写真や図表を使った叙述は、人類学への関心を掻き立てられるものだった。