『人工知能の「最適解」と人間の選択』NHKスペシャル取材班
人工知能が、研究室を飛び出し、現実社会に進出しています。膨大な計算力を背景に導き出される「最適解」に我々はどう向き合えばいいのか。現場取材を基に人工知能と社会のかかわりを展望する一冊です。
- 作者: NHKスペシャル取材班
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/11/15
- メディア: Kindle版
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NHKスペシャル取材班
羽生善治をナビゲーターに迎えた第1弾に続き、人工知能の導入が始まった世界各地を徹底取材、NHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2017」を制作・放送した(2017年6月)
1.「最適解」と神の一手
「ポナンザが見せた、将棋の新しい可能性。その中で人工知能の感覚を取り入れることは、これからのプロ棋士にとって、もはや必須条件となりつつある。」(p.41)
人間にはいまだ見えていない世界を、人工知能は既に見ている。将棋の世界では、多くの棋士が人工知能を教師のような存在にしている。高度に進化した人工知能は、将棋の世界にとどまらず、既に私たちの生活と身近なところに進出しているという。その例として、鉱脈がある場所をテクノロジーの進歩によって探していることが挙げられている。
2.研究室からリアルワールドへ
「人工知能の脅威は、職を奪われることよりも、人工知能によって伸びる企業とそうではない企業に二分されることにあるのはないだろうか。」(p.65)
AIタクシーを導入したタクシー会社について触れられている。この中で、人工知能をうまく取り入れられた企業にとっては「天使」になり、それができなかった企業にとっては「悪魔」のような存在になるのではないかという考察がある。
3.管理される人間たち
「退職の予兆は数字で示され、数字が大きいほどその可能性が高い。」(p.133)
日本でも、人手不足を背景に、職場で人工知能を取り入れる動きが始まっている。退職率の高さという問題を抱える医療事務業界でも、人工知能を活用する試みが始まっているという。人工知能が出した答えを鵜呑みにするのではなく、適度な距離感を保って、うまく付き合うことが大事なのかなと思った。
4.人工知能は世界を救うか
「完全なAI政治家が実現したとしたら、そのとき、私たちは否応なく、人類にとって『幸福』とは何か、改めて問われるのは間違いないだろう。」(p.181)
人間を超える存在となった人工知能が政治家になり変わり、国民一人ひとりの意見を瞬時に吸い上げて、「最適解」による政治を始めたらと考えるとまさにSFの世界。そのような未来があるとしたら、期待もするけれど不安でもある。
[感想]
将棋については、ポナンザが名人に2連勝したことから、どちらが強いかという議論はあまり意味がなくなりつつあります。ただ、敗れた佐藤名人が「(AIと人間の)評価の軸が違う以上は、その価値観は両立できるし、どちらも別の軸として立つことができると思います」と述べていたり、羽生氏も「人工知能によって、将棋の新たな地平が開けたと思います」と語るなど、将棋界はAIソフトの進化をかなり前向きに捉えていることが印象深いです。私は、人間の思い込みなどを一切排除する側面がAIの一番の強みだと思っているので、より社会に役立っていければと思っています。しかし、人工知能を使えばドライバーの怠慢や不注意による事故を減らすことができたりする一方で、安全や安心と引き換えに発生しうる「影」の部分をどうコントロールすればいいかがこれからの課題ですね。