『イメージを読む―美術史入門―』若桑みどり
企業も役所も学校もイメージを利用しなければ、製品を売ることも、共同体をまとめることも、心をひきつけることもできません。無数のイメージに取り巻かれ、その影響を受け、それと共に暮らしています。
- 作者: 若桑みどり
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1993/01
- メディア: 単行本
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若桑みどり(1935~)
東京生まれ。東京芸術大学美術学部芸術学科卒。千葉大学名誉教授。
1.ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂の天井画
「この絵のあたえるある混乱した印象は、だれもがほんとうに救済されるかがはっきりとはわからくなった時代の状況そのものを表しているといえます。」(p.53)
たとえ一見縁のないキリスト教のことが描かれていても、いまの時代、なにが真実で、どこに正義があるのかはっきりしなくなり、たえまない戦争や内乱の緊張、対立のなかにあるこの時代とも深く理解しあえるところがある。
2.レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」
「レオナルド・ダ・ヴィンチが『モナ・リザ』に隠した謎とは、ひとくちにいえば神のいない宇宙観です。」(p.58)
レオナルドは、目に見えた事実にそむかぬように、「真実らしさ」というものに非常に誠実であったばかりでなく、主題のもつ思想的な、また精神的な真実、つまりはことがらの本質を描き出そうとした画家であったことが分かる。
3.デューラーの「メレンコリア1」
「私は、芸術の価値のひとつは、それがどれだけ人間にとって普遍的な真実をふくんでいるか、という点にあると思います。」(p.145)
歴史とは過去を正しく理解することで、現在の価値の基準で裁くことではない。現在があるからこそ未来があって、過去の誤謬のなかに現実の真理の卵がある。また、科学的真理は価値を変えても、芸術の価値はそれとは別である。
4.ジョルジョーネの「テンペスタ(嵐)」あるいは「絵画の謎」
「神によってつくられた動かない世界にかわって、それ自身のうちにたえまなく変化し、創造し、崩壊する運動をもった世界がここに表現されています。」(p.195)
この絵は、歴史上もっとも「解釈」の多い作品となってしまった。著者は、宇宙のいきいきしたエネルギーの、そのざわつくようなダイナミズ厶にほんとうに共感し、そのように自然と人間を描いたと解釈しているようだ。
[感想]
本著は1993年に書かれていて、あとがきには「芸術という広大な世界のほんのひとつの手がかりだと思っていただければ」(p.200-201)と書かれている。一番印象に残ったのは「芸術にいちばん似ているのは人間です」(p.28)といい、芸術が感覚でつくられ、感覚で理解される感性の文化ではないということである。人間でも一目見ただけでその威厳や美しさに戦慄するのと同じで、戦慄するのは、その人間の目の光や、身振りや、いったことばやしたことのせいである。人間は外観であると同時に複雑な意味の発信体のように、芸術を理解することは思想的なことなのだと思った。