きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『依存症』信田さよ子

著者は、「依存症」とは、時代の要請に応え、走り続けようとした日本の「近代」の陥穽、家族共通の病だという。本書は、カウンセリングを通して、依存症を正面に捉えて取り組む著者の姿勢の表現でした。

依存症 (文春新書)

依存症 (文春新書)

信田さよ子(1946~)

岐阜県生。お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒業。

1.アルコール依存症

「中毒と依存症は全く異なるものなのだ。」(p.15)

中毒とは、ある物質を摂取した結果、その人の身体に生じるさまざまな不快な反応のことを指している。一方依存とは、自らすすんで摂取による効果を繰り返し繰り返し求めることを指す。そして、医学的にアルコール依存症とは、精神依存と身体依存から成り立っているらしい。日本のアルコール依存症が、歴史の経過とともに考察されていて面白い。日本の経済が急カーブを描いて上昇するのと国民1人当たりのアルコール消費量の増大とが比例していることは興味深かった。

2.依存症と嗜癖

「依存症とは、このように我々に人間関係の重さと同時に、疑いをはさむことなく使われてきた『愛情』について問い掛ける」(p.63)

周囲の人間は、傷つけられないよう離れ、本人が現実に直面することの妨害をしないことが何より必要なのかもしれない。離れていくことも愛であり、手助けするのが時としては有害な愛になるとすればいったい「愛情」とは何だろうか。

3.アダルト・チルドレン

アダルト・チルドレンとはAdult Children Of Alcoholics(ACOA)の略で、もともと「アルコール依存症の親のもとで育って成人した人」という意味である。著者は「現在の自分の生きづらさが親との関係に起因すると認めた人」と定義づけている。

4.回復という希望

「依存症の人たちは何よりも時代の、資本主義の要請に忠実だった人である。」(p.177)

HALT、すなわちHungry、Angry、Lonely、Tiredの四語、飢え、怒り、孤独、疲労、これらが飲酒欲求をかき立てる。この過酷な社会を生きぬくのにこの全てがない生活は考えられないだろう。ということはいままでの生き方を180度転換しなければ、嗜癖行動をやめつづけることは困難という。

[感想]

ACの定義にはうならされました。現場の内側から、依存症の構造を明確な言葉で語られています。問題の重い軽いではなく、きちんと構造の芯を掴んだ解説がされている印象です。例えば、資本主義の構造から依存症の原因を考察されていたり、意志の強さとの関係など鋭い指摘ばかりだと感じています。私は本を読むことの他に、スマホにも依存しています。よく食べるもの、よく飲むもの、それがコントロールできているのか私自身に問いただしたいと思いました。