きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『棋士とAI――アルファ碁から始まった未来』王銘琬

私は『ヒカルの碁』を観たくらいで囲碁のルールは知らないですが、アルファ碁の存在は耳にしたことがありました。囲碁という世界で、今後どのようにAIと関わっていくか気になって、手に取ってみました。

棋士とAI――アルファ碁から始まった未来 (岩波新書)

棋士とAI――アルファ碁から始まった未来 (岩波新書)

王銘琬(1961~)

台湾台南生まれ。日本棋院九段。

1.「強いAI」の登場

「アルファ碁はディープランニング技術がいまなしえた最高の到達点、完成度を示したもの」(p.24)

本書ではディープラーニングが入っているソフトをAIと呼ぶ。

2.アルファ碁の振る舞い

「『確率』はアルファ碁の一番基本の単語になっています。」(p.35)

難しくて結論を出すことができない局面でも「こっちに打つのが良さそう」と考えるが、「こっちに打つ方が勝つ確率が高い」とは考えない。しかし、「確率」はアルファ碁の一番基本の単語になっているらしい。人間同士では黒、白どっちを持っても、互角だとされているが、アルファ碁の「自己対戦」を50局した結果、白番の勝率が76%だったことは興味深かった。

3.AIと人間の交差点

「人間は見たものをそのまま理解するよりも、その特徴をとらえ意味や前後関係で関連づけ、自分が理解しやすいように加工します。」(p.91)

人間は主にストーリー――前後関係によって、局面を判断するけれど、AIの判断はまさに絶対音感のように、いままでどうだったかなど関係なく、局面そのものを正確に判断できるという。人間とAIの一番の違いに、人間は恐怖心を持っているという分析があり、現状を維持したいと思う傾向がある点でAIと異なるらしい。

4.盤上から社会へ

「AIのない時代は、人間は強さを追求するだけで、強さも面白さも手に入れることができました。しかし強さを極めた時の虚しさがおぼろげに見え始めたいま、その行動パターンを考え直す時がきています。」(p.164)

人間は囲碁で見果てぬ強さを追いかけてきたが、強さが最大になれば面白さはゼロになることを意識しなければならない時代になったという。これは囲碁に限ったことではないと思った。

5.人間の証明

「正直者のAIに対して人間は嘘つき」(p.196)

人間は空気を読んで、言い方を調整したりするほか、立場によって考え方が変わることもある。昨日まで声高にあることを主張していた人が、境遇が変わることによって、急に逆のことを言いだすことがる。このように、嘘をつくつもりがなくても、周りから見れば嘘になることもある。人間は嘘をつかない方が難しい生き物である。

[感想]

AIが人間より優れている特技は、①局面の勝率判断、②候補手の提示、③結果が整理される、の3つにまとめることができるみたいです。様々な分野でAIの出現することによって人間の表現が危機に瀕していること、そのために我々が、AIが栄えた後でも持っている、AIにはない「人間らしさ」にもっと重きを置く必要があると述べられていました。その「人間らしさ」の答えになりうるもののヒントとして、人間の抱えている矛盾、人間にしかないストーリーがある、といった幾つかの提示がなされていました。AIについての理解を得ることで、AIが持っていない「人間らしさ」についての考えを深めることが必要になってくることが分かりました。