きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『センスある日本語表現のために―語感とは何か』中村明

「語感」って何かと聞かれると、説明するのは難しいですよね。感覚的な言語論を超えた語感の整理・分析は、いかに行なわれ得るのか。本書は、豊かな言語生活を楽しむヒントを提供してくれる内容でした。

センスある日本語表現のために―語感とは何か (中公新書)

センスある日本語表現のために―語感とは何か (中公新書)

中村明(1935~)

山形県鶴岡市に生まれる。早稲田大学大学院修了。早稲田大学教授。

1.ことばのひろがり

「日本語の語彙はまことに多種多様なことばの寄り合い所帯であったことに、あらためて驚く。」(p.16)

「えびフライ」「お子様ランチ」「ペン皿」のような和語と外来語との結びつきや、「貸切り観光バス」のような和漢洋の結びつきでできた混種語まである。おまけに、「テーマソング」はドイツ語と英語、「ヘアサロン」は英語とフランス語というように、別々の国のことばを結びつけて造った語もある。他にも、「テーブルスピーチ」「アフタースピーチ」のように英語の単語を部品として組み立てた、本場で通じない和製英語や、「ナイター」のように英語を加工した、いわば国産英語もある。

2.語感とは何か

事典に従って意味・用法を確認する。

  • 類義語の微妙なニュアンスの差を感じ取る能力
  • ある語が支持する対象的意味以外に、その語がもつ感じ

3.語感の環境

「どんな表現をとるうか、そこに趣味や性格や態度や教養や言語感覚や、その他もろもろの人の在り方が映るかもしれない。考えると恐ろしいことだ。日ごろから語感をみがき、一瞬一瞬、透明な心で対象に向かうほかはない。」(p.215)

何で笑うかでその人間の人柄がわかるとフランスの劇作家、マルセル・パニョルは言ったが、それは表現する場合でも同じことだと思う。ことばは、それがさす意味を伝えるとともに、そういうことばで伝えようとしている人間をも伝える。

[感想]

本書のあとがきには、「人とことばとのふしぎなかかわりについて考え、日本語のゆたかさ、やさしさを味わい、そうして、すっきりした表現の奥に、ことばの知性と感性の微妙なバランス感覚が働いていることを感じてくださるよう」と書いてあります。本書には「語感」に関する用例が実に豊富にとりあげられています。「語感」の研究はあまり進んでいないらしいし、文献も少ないようです。様々なことばを比較されており、感覚的に使い分けていたことばが、このように言語化されて説明されるとなんだか嬉しい気持ちになりました。