きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『服従の心理』スタンレー・ミルグラム

盗みや殺しや暴行を心底嫌っている人でも、権威に命令されたらこうした行動をあっさりしてしまいがちだという。そういう心理の根底には何があるか気になって、分かりやすい訳ですぐに読破してしまった。

服従の心理 (河出文庫)

服従の心理 (河出文庫)

スタンレー・ミルグラム(1933~1984)

ニューヨーク生まれ。心理学者。服従実験の業績でアメリカ科学振興協会より社会心理学賞を受賞。

ミルグラム実験

被験者は教師役となり、生徒役が問題の答えを間違えた際に、罰として電気ショックを与える。権威によって他人の体に危害を加えるように指示されたときにどういった反応をするかが実験された。

  • 前向きな態度があって強制がない限りにおいて服従は協力的な雰囲気を持つ。実力行使の危険や罰則が脅しとして使われる場合には、服従は恐怖によってもたらされる。

  • 服従は、社会生活の構造の中で基本的な要素。あらゆる共同生活で権威システムは必要不可欠。

  • 服従的な被験者でいちばん多い調整は、自分が自分の行動に責任がないと考えること。あらゆる主導権を正当な権威である実験者に委ねることで、自分は責任から逃れられる。責任感の消失は、権威への従属に伴う最も重要な帰結である。

  • 「半擬人化」
  • 基本的には人間が生み出して維持し続けている力に対し、非人間的な属性を与えてしまう傾向。これにより組織や制度の背後にある人間要素は否定され、実験の指示に従ってしまう。


  • 服従の問題は、社会の様式と形態やその発展の仕方も大いに影響する。分業で仕事や人生の人間的な性質が奪われてしまう。人は全体像を見ることができず、一部しか見えていないために全体としての方向性を持って行動することができなくなってしまう。

  • 個人が日常生活で行う多くの行動は、本人にとっては内面的な道徳的性質から発しているように思えるが、同様に権威に動機づけられているのは間違いない。

  • ヒエラルキー
  • 人は単独ではなく、ヒエラルキー的な構造の中で機能する。安定した社会組織はその集団が環境と対処する能力を向上させると同時に集団内の関係を統制することで内部的な暴力を減らす。服従能力は社会組織の前提となるものであり、生命体に組み込まれている。


  • 被験者を非服従へと駆り立てるのは一般的な緊張である。
  • 緊張解消のメカニズム

    回避・・・自分の行動が自分の感覚にもたらす帰結から己を遮断しようとする

    否認・・・目に見える証拠と拒絶することで、出来事を都合良く解釈しようとする

    ごまかし・・・明確な非服従なしに学習者を助けようとする

[感想]

本著には、権威に服従する人間の心理を分析するために行われた実験の結果がまとめられている。ミルグラムが行った実験では、善良な人々が権威に服従して残酷なことをやってしまうということが観測された。その理由は、被験者が自分は責任をとらなくていいと考えたことが大きいと思う。人は責任がなくなったとき、責任のある人間にはできないような行為をやるだと思う。例えば、インターネットでは匿名で暴言を吐いているのをよく見かけるが、この理由として顔や名前がないぶん自分の発言に責任を持たなくてよいからということが挙げられる。ミルグラムの実験においても、「実験者が被験者に、行動の責任はないことを保証してあげると、緊張は目に見えて減る」(p.239)ことが観測されている。